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心臓病の子ども達と共に

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8.親父が倒れた!

僕は一人っ子である。小さい時からこの「一人っ子」という言葉を聞くといつもいやな思いをしていた。たいてい良い意味では使われていないからである。「あの子は一人っ子だからわがままだ」「一人っ子だから自分勝手だ」「一人っ子だから思いやりがないんだ」「一人っ子だと何でも買ってもらえていいね」などから始まって、大きくなってからは「長男というだけでも難しいのに、ましてや一人っ子ならお嫁さんは来ない」とまで言われたものである。本屋さんに行けば、『一人っ子の欠点』『一人っ子の育て方』なんていう本もある。ところが、その一人っ子の当人としては、幼い頃から兄弟でケンカしながら遊んでいる友人を見て、とてもうらやましかったことを覚えている。ただ、もし僕に兄弟がいたならば、おそらく今とは違う人生になっていたはずである。

21歳でなんとか医学部に合格し、ようやくお日様の下で生活ができるようになった。僕にすれば遅れてやってきた青春真っ盛りの時期であった。朝早く家を飛び出すものの、大学の授業はそこそこにサークル活動や酒盛りなどに熱中していて、家に帰らないこともたびたびであった。

そんな大学生活3年目のある春の日、1晩家をあけて次の日の夕方に帰った僕を1枚の置き手紙が迎えた。「お父さんが心筋梗塞で倒れました。森川病院に入院しています。すぐに来てください」乱れた母の文字であった。今と違って携帯電話もポケットベルも無い時代である。おそらく友人宅にも数カ所電話をかけたことだろうが、前夜はたまたま新しい友人たちとの飲み会であった。夫の非常事態にもかかわらず息子と連絡が取れずに母がかなり焦ったであろうことを、その乱れた文字と付けっぱなしの電灯が物語っていた。

森川病院は僕が昔通っていた中学校のすぐ近くにある個人病院であったが、後で知ったところによると、高血圧や狭心症などの循環器疾患では徳島でも多少名の通った病院とのことであった。車で約5分、病院に駆けつけると親父は絶対安静の状態でベッドに寝かされていた。「どこに行ってたん!」の言葉から始まって、短いお説教と長い状況説明であった。一時は生命も危ぶまれる状態であったが、日付が変わった頃からようやく落ち着いてきたので、今は鎮静剤と血液の流れをよくする薬を使って様子を見ているとのことであった。親父が倒れてから僕が駆けつけるまでに1日以上経過していたので、心筋梗塞にとって一番危険な時間帯はもう既に過ぎていたのだった。最近ならば冠動脈内血栓溶解法や経皮的冠動脈形成術(PTCA)などの治療が行われていたことだろうが、結果的に親父は回復して数カ月後には職場復帰した。その病院では冠動脈造影ができなかったので、その翌年に別の総合病院で検査を受けたところほぼ満足のいく結果が得られており、森川病院の先生方にはたいへん感謝している。

この親父の左右の銘は「心累に無し(こころるいになし)」であった。すなわち、仕事中は家族に心を残さず仕事に没頭しろ、徹底的に仕事をしろという意味である。その言葉通りに親父は頑固で気難しい仕事人間であり、息子としてはその結果が心筋梗塞を引き起こしたように思うのだが、それを親父はけっして認めないであろうし、自分の生き方を後悔してはいないだろう。そんな親父に僕はよく反発した。自分の息子に、医者よりも自分の後を継いで公務員になって欲しいと願っていた親父であった。大学浪人中も「公務員になってもならなくてもよいから、念のために公務員試験だけは受けておけ」と何度も言われたが、親父以上に頑固な僕はけっして受けようとはしなかったのだ。けれど、自分の病気の復讐戦の意味で腎臓病の専門家になりたいと願っていたはずの僕が、結局は心臓病を選ぶことになった背景には親父の心筋梗塞が多少関係していたのかもしれない。

男の子は程度の差はあれ、幼い頃には父親を理想的な男性モデルとして成長するが、思春期には両親の束縛から逃れて自立するために反発し、その過程で父親を目標あるいはライバルとみなして対立し、最終的には父親を乗り越えていこうとするものだ。僕自身と親父の関係を振り返ってみても、この過程を経て今に至っていると思う。我が家には2人の男の子がいるが、彼らもまたきっとそのうちこの父に反発し、乗り越えようともがく時が来るのだろう。いつか来るその日を楽しみにしながら、その時まで乗り越え甲斐のある父でいたいと思っている。

僕が目標としていた親父も最近はようやく言動が丸くなってきた。その親父もあと数年で80歳になる。

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