香川県高松市の小児科・アレルギー科・小児循環器内科 医療法人社団裕心会 あきた小児科クリニック

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心臓病の子ども達と共に

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10.秋田先生、すぐ手術室まで来てください!

いよいよ紀子ちゃんの手術の日が来た。病名はタウシッヒ・ビン奇形。基本的な心奇形は両大血管右室起始であるが、たまたま構造上、血液の流れが大血管転換症とほぼ同じものをこう呼ぶのである。生後3日目にこの病院へ運び込まれてから1週間、呼吸困難や尿量減少など、いくつもの危機を乗り越えての手術である。術前の状態が良くなかったので、小児科医や心臓外科医を交えてのカンファレンスの結果、心臓カテーテル検査を行わずに心エコー検査のみの診断で、手術することになった。心臓外科医が小児科側の心エコー診断を信用してくれている証拠であり、うれしいことではあるが、反面プレッシャーでもある。合併心奇形などが余分に1つでもあれば、その奇形の内容によっては手術法や方針がまったく違ってしまうのが先天性心疾患の世界である。だから、心臓カテーテル検査やMRI検査を行わずに心エコー診断のみで手術する場合は、心エコーにおける見落としは特に許されない。

その日は外来当番であった。夏休みが始まったこともあって患者さんが多く、いつまでたっても外来が終わらなかった。手術を覗きに行きたいのはヤマヤマであったが、他の医師にも頼みづらく、抜け出せそうにもなかった。・・・・・そこへタイトルに掲げた院内放送である。「小児科の秋田先生、至急手術室へ来てください!」この瞬間、だいたいの想像はつく。手術途中の出血が多いとか急に血圧が下がって状態が悪いとかの何らかの突発的なトラブルが起こったか、あるいは術中の観察で、術前診断に間違いや見落としがあり、手術方法を変更したり手術を追加する必要が出てきたか、たいていはこのどちらかである。どちらにせよ良いことではなく、患者さんにとっては悪いパターンである。

「呼ばれたから」と、他の暇そうな医師に堂々と代診を頼んで手術室へ急ぐ。もちろん、途中から心臓はドキドキしている。多少の冷や汗も出る。手術室に入る。心臓外科医たちの眼が厳しい。悪い予感が当たってしまったらしい。「ジャテン手術は終わったんだけど、血圧が低いんでいろいろ探ってみたら、大動脈縮窄を合併していたよ!心エコーのときに大動脈のあたりもちゃんと見てたの?」・・・・・もちろん心エコーの際には大動脈も観察しており、異常ないと思って手術に送りだしたわけではあるが、現実には異常があったのである。『すいません』と謝るのは簡単であるが、なかなか『すいません』という言葉は出てこない。その代わり、必死で術野を見る。こんな時何はさておき、紀子ちゃんはどうなっているのかという心配と、彼女にとって少しでも良い処置を少しでも早くやって欲しいという気持ちが勝っているから、『すいません』はずっと後から出る言葉である。「今はどうなってますか?」自然とこの言葉が出てくる。「サブクラビアン・フラップ術をやってるところ。なんとかなりそうだよ」

それから数時間後、ICUのベッドに紀子ちゃんはいた。もちろん人工呼吸中ではあるが、脈拍も血圧もすこぶる安定していた。上半身と下半身の血圧にほとんど差がないところをみると、サブクラビアン・フラップ手術がうまくいったようであった。院内放送があってからここまでの時間はそんなに長くないのに、実際の何倍もの時間が経過したような気がしていた。彼女の様子を見守りながら、このまま順調に回復していくように、あとから後遺症などが出ないように、そして次からは同じ失敗はしないぞ、と思うのである。

結果が良かったからまだ救いはあるが、手術前の小児科診断に間違いは許されない。「小児科の先生、手術室へ来てください!」この放送ほど、心臓病を扱っている小児科医の肝を冷やすものはない。今の勤務している病院には心臓外科がないので直接手術室に呼び出されることはなくなった。それでも何ヵ月かに1人ぐらいは、紹介先の病院から手術が無事終わったという返事をもらい、手術診断と照らし合わせて自分の術前診断が細かい診断も含めて間違っていなかったことを確認するまで安心できないような、診断の難しい患者さんがいるのは確かである。

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