香川県高松市の小児科・アレルギー科・小児循環器内科 医療法人社団裕心会 あきた小児科クリニック

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心臓病の子ども達と共に

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便り6.記憶の引き出しを開いて

1.あるお母さんの手記から

重症の心臓病を持つ子どもさんのお母さんが、出生直後から数年に及んだ長い闘病時代についての手記を書いておられました。僕が主治医でしたので、お許しを得てここにその一部を抜粋します。

『(前略)ずっと子どもの写真ばかり撮ってきたので、「今日は親子3人で写そう」と保育器を囲んで自動シャッターを切った。明日は手術、これが最後の写真になるかもしれない・・・。(中略)私たちが面会に行くと、水を置いている枕元の方に顔を向けて、痩せてギョロギョロした目で必死に水を欲しがった。手を伸ばせば届くほど近くにあっても、その手はベッドに縛られている。いくら欲しがってももうもらえないことがわかると、ポロポロと涙をこぼして泣いた。人工呼吸器を使っているのでいくら泣いても声が出せないのが余計に可哀想だった。お腹いっぱいミルクを飲んで、母親に抱かれて眠る、たったそれだけのことがこの時彼には許されなかった。ある朝部屋に入ると、上を向いてじっと動かないのでそっとそばに寄ると、目を開けたままじっと天井を見つめていた。こうして一人で白い天井を見つめて長い夜を過ごしていたのかと思うと、本当に胸が痛んだ。笑って頬ずりをした後、ICUを飛び出し声をあげて泣いた。(中略)当時ずっと書いていた7冊の入院日記を整理したら、いつかあなたに読んでもらいたい。生きるのが辛くなった時、こんなふうに大勢の人に助けられて今の自分があるということに感謝して欲しい。そして、耐え抜いてきた自分自身に自信と誇りを持って、「辛いことも多いけれど、そう悪くない」と思える人生を送って欲しい。私はあなたがいてくれる人生を、いい人生だと思っているから。』


2.記憶の引き出しを開いて

重症の心臓病に限らず、低出生体重児などでも保育器越しに見守り、触れることしかできない時期が長く続くことがあります。”お腹いっぱいミルクを飲んで、母親に抱かれて眠る”この当たり前のことが、はるかな夢に過ぎない時もあります。けれど、まだ物言わぬ小さな赤ちゃんであっても、心配そうに、そして愛しそうに見つめる四つの瞳や温かな手や肌の感触は、思い出せない記憶の引き出しのどこかにしっかりとしまい込まれています。もちろん、病気もなく平穏な子ども時代を送れることは本当に幸せなことです。その一方で、見守ることしかできなかった赤ちゃん時代や度重なる入院生活を経験した方も、その深い想いを決して無駄にしないでください。

そのうち子どもが大きくなって思春期に差し掛かってくると、自分の良い所を見失ってしまう時があります。心無い他人に振り回されてしまうこともあります。そんな時こそ、遠い記憶の引き出しの中から苦しんだ親子だけの勲章を取り出しましょう。保育器越しに見つめた赤ちゃん時代のこと、ベッドの上で過ごした乳幼児期のことを語ってあげてください。自分たちの子どもとして生まれてくれたあの日のこと、苦しかったけれどたくさんの人たちに囲まれて大きくなってきた日々のこと、子どものたった一つの言葉や小さな行動がただ嬉しかった幼い頃のこと・・・親からいかに大切に思われてきたかということを、態度と言葉で示し続けてください。それは、有名な伝記やベストセラーよりも、はるかに子どもの心に勇気と力を与えてくれるはずです。

大きな病気やケガもなく順調に成長した子どもも、「自分は本当にダメなんだ」「こんな自分なんてどうでもいいんだ」と、道に迷い始める時期が来るでしょう。そんな時にはまず黙って話を聴いてあげましょう。同じ時間を過ごしましょう。そんな中から、親子の心の接点というものが自然と芽生え、親に対する本当の信頼感が培われていきます。そしていつか、子どもの気持ちが親の方を振り向くようになったら、静かに語り掛けてあげてください。些細なことさえ心配で、大事に慈しみながら育ててきたこれまでのことを・・・。「言わなくてもわかっているだろう」「そんなことは当たり前だ」ではないのです。結果を急がずに、ゆっくりと語り続けてください。子どもの中にある遠い記憶の引き出しが開いて、自分の存在が大切で大きなものだと気づいてくれるまで・・・。『私はあなたがいてくれる人生を、いい人生だと思っているから』親から素直にこう言ってもらえるほど、子どもとして幸せなことはないのですから。

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